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薬師寺東塔の多層トリックがつくる軽快なリズム。ライトのSCジョンソン社リサーチタワーにも

日本の浮世絵の熱心なコレクターとして知られるフランク・ロイド・ライト。ライトの作品には、日本の伝統建築からインスピレーションを受けたと思われるものがあります。ライトが受けた日本文化の影響を何回かに渡って紐解いてみましょう。今回は、薬師寺東塔とSCジョンソン本社にスポットを当てます。

SCジョンソンは、ウィスコンシン州ラシーンに本拠を置く家庭用化学用品のグローバル企業。1936年に、SCジョンソンの3代目社長のH.F.ジョンソン・ジュニアは、フランク・ロイド・ライトを本社ビルの建築家として指名しました。すでに着工が始まっていた建設を白紙に戻し、「普通の建物なら誰でも建てられる。わたしは世界一のオフィスビルを建てたかった。それを実現するには世界一の建築家を起用することが唯一の道だ」とH.F.ジョンソンは語っています。

1976年に合衆国国定歴史建造物に指定されたSCジョンソン本社には、荘厳なインテリアを誇る「グレートワークルーム」で有名なアドミニストレーションビルと、地上14階建てのリサーチタワーを擁しています。管理棟のアドミニストレーションビルは、1936年に着工し、1939年に竣工。その後に研究棟であるリサーチタワーが、1947年に着工し、1950年に完成しました。

はじめに、薬師寺東塔の裳階(もこし)構造との類似が見られるリサーチタワーについて見ていきましょう。奈良市の国宝・薬師寺東塔は、現在寺に残る建築のなかで奈良時代にさかのぼる唯一の建築物。相輪を含む総高34.1mの東塔は、一見すると六重の塔に見えますが、奇数層の屋根は風雨から保護するための庇となる裳階であり、内部構造は三重の塔です。

大きな屋根の3層の各フロアが小さな裳階を持ち、外観にジグザグ状の軽快なリズムを生み出す東塔のデザインは、「凍れる音楽」と評されています。一方、SCジョンソン社リサーチタワーは、外から見ると7層に見えますが、各階のガラスの中央部分に、もう一層のフロアが隠されている地上14階建てのビル。薬師寺東塔の裳階を使った多層トリックとは、ちょうど真逆のアプローチと言えます。

「空高く上昇する」コンセプトのSCジョンソン・リサーチタワーは、片持ち梁様式で最も高い建造物の一つです。中心を貫くコアと片持ちで床を張り出す構造も、芯木(中央の通し柱)を中心に腕木を伸ばしてフロアを形成する薬師寺東塔の構造とよく似ています。メインフロアの四角形のコンクリート床と、内部に収納された円形バルコニーが交互に連続するリズミカルなデザインも共通しています。

SCジョンソン社アドミニストレーションビルの「グレートワークルーム」の驚異的なインテリアは、どこから着想されたのでしょう。「リリーパッド」とライトが呼んだ立ち並ぶきのこのような支柱は、蓮の葉をモチーフにしたもの。そのSF的なデザインが、仏教の影響によるものというのは興味深いことです。

直径約23cmから始まる支柱は、6.5mある天井部分では直径約5.6mに広がっています。蓮の葉の最上部には、自然光を取り入れるための大きなトップライトがあります。これにより、まるで水中から水面を見上げているような独特の浮遊感を内部スペースに与えています。

薬師寺東塔は、2009年より大地震を見据えた耐震化のための解体修理が約110年ぶりに行われており、2020年4月頃の完成予定とのことです。SCジョンソン社では、本社見学ツアーを事前予約制で一般無料公開しています。蘇った「凍れる音楽」薬師寺東塔を訪れた後、ライトのSCジョンソン本社のデザインを見てみると、ライトが受けた日本文化の影響を新たに発見できるかもしれません。