After Report

【動画&レポート】天才建築家ライトが愛した日本 〜日本に語り継がれるライトの思想を哲学する〜

ライトが与えた日本への影響とは

近代建築の巨匠フランク・ロイド・ライトの8作品が、2019年、アメリカの世界遺産に登録された。

1867年にアメリカ東部のウィスコンシン州に生まれたライトは、20世紀初頭、建物の高さを抑え、四方に開ける新しい建築様式「プレーリースタイル(草原方式)」を確立して評価を高めた。親日家としても知られる彼は日本でも多く作品を残し、彼が追求した「有機的建築」の思想は、多くの日本人クリエイターに影響を及ぼしている。

ライトの思想はなぜ母国アメリカを超えて、日本でも愛されているのか?
それを紐解くべく、去る10月30日、建築外の分野でライトの思想を再解釈して作品を制作した日本人クリエイターをゲストに迎えてイベントを開催した。

  • 建築家橋本夕紀夫氏

    1962年愛知県生まれ。86年愛知県立芸術大学デザイン学科卒業。(株)スーパーポテトを経て、有限会社橋本夕紀夫デザインスタジオを設立。愛知県立芸術大学非常勤講師、昭和女子大学非常勤講師。JCD優秀賞、タカシマヤ美術賞、 IIDA Award of Distinction等受賞。代表作として、ザ・ペニンシュラホテル東京(日比谷)、MoonBird(ヤマギワ)Hyatt Regency 瀬良垣アイランドイン沖縄(沖縄)など。「LEDと曲げわっぱ‐進化する伝統デザイン」を六耀社より刊行

  • ボードゲームクリエイター津村修二氏

    1983年福岡県福岡市生まれ。ボードゲームクリエイター。2011年「Amen-アメン-」(ツムラクリエイション)、19年「さくらの大冒険」(つみきや)をゲームデザイン。その他、ゲーム会やアート展、ワークショップ、大学での講演、コラム連載、メディア出演などボードゲームの魅力を幅広く伝える活動に取り組んでいる。現在、ヨーロッパの木製玩具を中心とした店「つみきや」のスタッフとしても勤務中。 
    ツムラクリエイションhttp://tsumura-creation.com/

▼イベント動画を視聴できます。レポートと合わせてお楽しみ下さい

\フランク・ロイド・ライト8作品世界遺産登録記念イべント/ 『天才建築家 ライトが愛した日本』 〜 日本に語り継がれるライトの思想を哲学する 〜

\フランク・ロイド・ライト8作品世界遺産登録記念イべント/ 『天才建築家 ライトが愛した日本』 〜 日本に語り継がれるライトの思想を哲学する 〜▼詳細レポートはこちら

YADOKARIさんの投稿 2020年1月15日水曜日

Facebook動画で視聴できない方はYoutube動画(こちらをクリック)も視聴可能です。

第一部:世界遺産に登録されたフランク・ロイド・ライトの8作品

世界遺産の8作品をご紹介いただいたのは、ライトの「有機的建築」を継承した家づくりやデザイン等を手掛ける日本オーガニックアーキテクチャー株式会社のブランドマネージャー石原敬久さん。まずは簡単にライトの建築の特徴について解説していただいた。

「オーガニック・アーキテクチャー、日本語に訳すと有機的建築物。ライトが生涯貫いた考え方です。ライトはウィスコンシンの農場で育ち、自然や、母親に与えられた積み木などから、内側から外側へ、下から上へ、と力学的に理にかなった考え方を身につけました。これがライトの建築の基盤にあります。

ライトの設計で実際に建設された建物は約460あり、現在は400以上がアメリカ各地に残っています。実は2016年にも10作品について世界遺産への登録申請がなされましたが、このときは残念ながら見送られました。ライトの死後に作られたものも含まれるなど、10という数にこだわるあまり無理があったからではないかと思います。一方、今回の8作品は、なるほど選ばれて当然だと思います」

第二部 「有機的建築」×「日本人クリエイター」

第二部では、フランク・ロイド・ライトの思想や哲学を再解釈して建築以外の分野で活躍するクリエイター、橋本夕起夫さんと津村修二さんをゲストに招き、ライトとの出会いや、彼にインスパイアされた作品をご紹介いただいた。

【ゲスト】
橋本夕紀夫さん:建築家・デザイナー。ナショップライティングコンテスト優秀賞、JCD優秀賞、 北米照明学会IIDA アワードオブエクセレンスなど受賞歴多数。現在、昭和女子大、愛知県立芸術大学 非常勤講師。

津村修二さん:ボードゲームクリエイター。2011年「ツムラクリエイション」として「Amen-アメン-」の製作と販売を開始。各種ゲーム会やワークショップを開き、ボードゲームの魅力を広く伝える活動を続けている。

橋本夕紀夫さん

橋本さんは、ライト生誕150周年となる2017年、「フランク・ロイド・ライトのオマージュ」展が開催され、建築家の坂茂さん、デザインスタジオgroovisionsとともにそれぞれ「タリアセン 2」のオマージュ作品を制作・展示した。

「私は、タリアセンを日本的な素材に置き換えたらどうだろうと考えました。形は一切いじっていません。使ったのは会津の桐材と、反射板として神奈川の金箔。また、通常のタリアセンは電球を使っていますが、それだと金箔への反射がよくなかったのでLEDに変え、角度やカバーなどにも工夫しました。

通常のタリアセンは、接続部に赤や濃い茶色を使ったりして全体の印象はアメリカ的になっています。でも素材を置き換えるだけで極めて日本的な表情になると感じ、『タリアセンJ』と名付けました。最近オープンしたばかりのインターコンチネンタルホテル別府のインテリアデザインを我々が手がけていまして、スイートのベッドルームにこれを置いています。別府の伝統工芸品が配された空間に非常にしっくりなじんでいます」

もう一つ、橋本さんがライトのデザインを意識して設計したのは、東京駅近くの新丸ビル1階にある「BEAMS HOUSE」の店舗である。

「ライトが作るような空間にしたいという思いで設計しました。周辺地区は、三菱地所が明治頃の歴史を意識しながら開発を行っています。またご存知のように、すぐそばにある帝国ホテルのかつての建物はかつてライトが設計しました。その場所の記憶を込めてみたいと考えたんです。ここでも素材を置き換えました。帝国ホテルのような細工が凝らされた柱や梁を、全てエキスパンドメタルにしました。蚊帳を意識して、向こうが見えそうで見えない薄手の布を使ったり。伝統とモダン、未来的な要素を表現したんです。

今回はプロダクトと空間のデザインをご紹介しましたが、それ以外でも色々な場所で、ライトの面白さや心地よさを、意識的・無意識的に表現してきた気がします」

続いてのゲストは、ボードゲームクリエイターの津村修二さん。ライトにハマったきっかけや、彼の幾何学的デザインにインスパイアされて制作したオリジナルゲーム「Amen」についてうかがった。

津村修二さん

「Amenは石取りゲームです。砂時計で全体の時間を把握して、時間内で誰が石を多く取っているかを競います。オリジナルの音楽もあり、それを聴きながら遊びます。

交流会ではみなさんAmenに興味津々

ライトとの出会いは20代前半頃。北欧家具やインテリアが好きで見ていた雑誌にライトの建築が紹介されていて、言葉にならないぐらいの衝撃を受けました。それをきっかけに、旧帝国ホテル、自由学園明日館、ヨドコウ迎賓館など国内のライトやその弟子が作った建築を巡る旅をしました。

私がライトのデザインから影響を受けた要素の一つは、まず造形です。ライトのデザインは幾何学模様が特徴です。教育熱心な母親が、フレーベルの教育に基づいた恩物(おんぶつ)という教育遊具を使わせていて、それにより円や三角、四角といった図形の組み合わせを直感的に理解するようになり、晩年になってもその感覚が残っていたんです。

Amenでも、砂時計の円、ピラミッドの三角形、盤面が四角、などの図形を使っています。砂時計の左右にピラミッドを置くシンメトリックな構成も、当時は意識してはいませんでしたがライトのデザインからインスピレーションを受けていますね。

次が色彩です。ライトの作った建物には、美しい実りの季節である秋の色、つまり茶色や黄色、緑などをよく使っています。Amenのゲームで使うタイルにも、白、茶、青、緑と自然を連想させる色を選びました。

3番目が素材。ライトは石をよく使ったんです。大谷石を使った旧帝国ホテルを見たとき、マヤ文明とか宇宙の知らない文明の遺跡を発見したような、それぐらいの衝撃を受けたんですね。私も石にこだわって、駒にはイタリア産のタイルを使ったり。音や手触り、感触にも気をつけて作りました。

そして最後が細部へのこだわり。普通、建築を作るときは外側だけですが、ライトは食器や家具、旧帝国ホテルだと文房具、椅子までデザインしていました。

ライトは住宅の核のような存在として、よく暖炉を作りました。そしてそこに家族が集うことを理想としていた。僕がボードゲームを作る上でもデジタルにはない人との繋がりを大切にしているので、共感できるところです。今後は、ライトの幾何学的な図形や、ライトが大切にしていた自然の仕組みなどをモチーフにゲームを作れたらいいと思っています」

最後に質疑応答が行われ、「日本人はなぜライトが好きか」との質問に、第一部にご登壇いただいた石原さんが回答した。

「ライトが日本を好きだったからだと思います。最初に勤めた事務所に浮世絵がたくさんあり、それを見て衝撃を受けたそうです。1905年には、ウィリッツ夫妻に招待されてキャサリン夫人と共に日本に二ヶ月くらい滞在しています。その間、日光のほか、名古屋、京都、奈良、高松などを訪れ、建築や工芸品を熱心に見て回りました。ライト自身、「世界中で私の考える有機的建築を実現して行なっているのは日本人だけだ」と言っています。日本人は自然の中に八百万の神を見出し、文化の中に自然を取り込んできました。そこが有機的建築と共通する部分があるんだろうと思います。そういうつながりがあって、ライトが日本を好きになってくれた。そして私たちに日本を再発見させてくれているんだろうなと思います」