若いファッションデザイナーたちは、ライトの建築に何を感じたか？

フランク・ロイド・ライトは、1890年代から1910年代に、それまでになかった「プレーリースタイル（草原様式）」という建築様式による住宅を建築します。大草原を意味する“prairie”という言葉の通り、米国中西部の草原の広大な広がりをアメリカの原風景とし、それに調和する建築スタイルを追求したものです。

プレーリースタイルは、閉ざされた重厚な箱型建築を否定し、建物の高さを抑えて水平ラインを強調しています。緩やかに傾斜した屋根、横に繋がった帯状の窓、大きく張り出した軒と低いテラスが四方に開けて、自然と調和するアメリカ独自の建築スタイルと言えるでしょう。

シカゴのハイドパーク地区に1910年に完成したロビーハウス（Robie House）は、ライトのプレーリースタイル建築の最高傑作と評されています。2017年のライト生誕150周年には、全米各地で様々な祝賀イベントが行われましたが、ここシカゴでは若いデザイナーたちによる、ライトの建築をテーマにしたファッションデザインコンテストが開催されました。

「Wright 150 Fashion Design Awards」と呼ばれるこのコンテストでは、シカゴ美術館附属美術大学でファッションデザインを専攻する3年生が実際にロビーハウスを訪れ、その印象を基に服をデザインスケッチ。ロビーハウスを運営管理するNPOのフランク・ロイド・ライト・トラスト、シカゴ歴史博物館、同大学ファッションデザイン学部の教授による審査員が、受賞デザインを選考しました。1位と2位に選ばれた作品は、実際に服として製作されて、オークストリートのジル・サンダーのショールームにディスプレイされました。

コンテストで1位を獲得したハナ・チャンは、ロングコートをデザインしました。彼女がロビーハウスを訪れたとき、ステンドガラスから差し込む自然光に感動したと言います。
「暖かい黄色の日光と美しく輝くガラス窓に緑のバックヤードが浮かび上がっていました。その瞬間、自分と自然が繋がっている感覚を感じて、自然と建築をミックスした構成の服を作ることを思いつきました」

チャンは、自然を反映させたオーガニックで流れるようなデザインに、ロビーハウス建築に含まれる幾何学的な形を取り入れています。この幾何学模様は、ライトのデザインのコピーではなく彼女のオリジナルです。

チャンのロビーハウスのファッションデザインへの翻訳は俯瞰的なもので、建築物の具体的な特徴に結びつけることはできませんが、次の受賞者はロビーハウスの一つの建築ディテールに注目しました。

シィンイー・リンは、ジャケットドレスのデザインで2位を獲得しました。レイヤーの下の部分のドレス生地は深い黄色で、緑と茶色のストロークで幾何学的にフレーミングしてあり、半透明なビニールジャケットと高い襟と袖が重層的に重ねられています。

「わたしの服のデザインは、ライトのガラスアートからインスピレーションを受けています」と、リンは言います。確かにこのデザインに対するロビーハウスのウィンドウの影響を認めるのは難しくありません。彼女は、学生コンテストはロビーハウスを訪れる初めての機会で、その経験は彼女に特別な感情を残したと言います。

「まばゆいばかりの晴天の日でした。わたしがロビーハウスにいたとき、連窓から日差しが降り注ぎ、空間全体を照らしていました。美しい窓からは、花や木々、鳥たちが見えました。それらの影はカラフルな太陽の光で床を彩っていました。とても平穏に感じました」

彼女は家に戻ってからライトの作品に関する研究を始めました。
「わたしは自分のデザインで追求したいライトのデザイン理論から、自然、地形、シンプルさというキーワードを見つけました」

リンの服の構造化されたスタイルは、ライトの建築のシンプルさと秩序を反映することを意図しています。カラーパレットも意図的に選ばれました。
「デザインの全体的なカラーパレットは土色で、茶色は木と地面を表し、緑は植物と生命を表現しています。すべての色は、静けさの空気を呼び起こすためのものです」

若いファッションデザイナーたちは、ライトのロビーハウスの光と自然、秩序や静けさといった印象をファッションに込めたようです。プレーリースタイルの樹木のない草原の水平の広がりを、垂直な人体モデルのファッションに融合させるのは、なかなかの難題だったかと思います。柔らかい服と固く直線的な建築。ライト自身がファッションをデザインしたら、どんな作品ができあがるのでしょう。

Via:
openhousechicago.org
flwright.org
classicchicagomagazine.com
houzz.com